地質時代と地球環境 - 光合成事典 2015-03-26 日本光合成学会
植物は 成長・繁殖する際に 自身の光合成産物を使うのであるから,
光合成生産は 子孫の存亡を左右する.すなわち 光合成は 植物の進化にも
大きく関与する.また 光合成が 地球環境の変化をもたらすこともあった.
シアノバクテリア などの原核光合成生物が 約30億年前の海中で生まれ,
約9億年前に真核光合成生物(植物)が誕生した.これらの生物の光合成によって
作られた酸素が大気中に蓄積していき ついにはオゾン層が形成されるに至った.
オゾン層には 紫外線を吸収する効果がある.
約4億年前には,オゾン層の発達により 地上の紫外線量が生物の致死量以下に
なり陸上植物が誕生した.
※ シルル紀後期に リグニンを有した植物が登場した。
歴史上 上陸した植物が立ち上がるためにはセルロース、ヘミセルロースを
固めるためのリグニンが必要であった。リグニンを分解できる微生物が
その当時はいなかったので植物は腐りにくいまま地表に蓄えられていった。
これが石炭の由来となる。石炭紀に石炭になった植物はフウインボク、リンボク、
ロボクなどであり、大量の植物が腐らないまま積み重なり、良質の無煙炭となった。
その後,中生代白亜紀の終わりまで地球は 全体に温暖湿潤であったので,
植物は よく茂り巨大化した.特に 約3億年前には,巨大シダが密林をつくり,
枯死体が分解されず堆積して 分厚い石炭層をつくった。石炭紀と呼ばれる.
※ 石炭:植物は年代を経るに従って 泥炭→褐炭→歴青炭→無煙炭 の順序で石炭化する。
炭素含有量は 泥炭の70%以下から順次上昇し 無煙炭の炭素濃度は90%以上
植物の誕生以来中生代まで,C3光合成を行うC3植物のみであった.
これに対して C4ジカルボン酸回路を有するC4植物は,中生代から新生代
第三紀にかけて進化したものと考えられている.
この進化には,大気中の二酸化炭素濃度の変化が 大きく関与している
とされている.
現在の地球の大気中のCO₂濃度は 約370 ppm, 酸素濃度は約21%である.
しかし 地球誕生から光合成生物の誕生に至る 約15億年間は,地球の
大気中にO₂は ほとんどなく,CO₂濃度は 約3%と 現在の100倍もあった.
※ 1ppm = 0.0001% = 10−6
原生代以降,大気中の O₂濃度は上昇を続け、CO₂濃度は,火山活動期
以外は ほぼ一貫して 現在の濃度の3~4倍程度であった.
ところが 中生代白亜紀から新生代第三紀にかけて CO₂濃度は低下し,
新世代第三紀の氷河期には,180ppmと 今の約半分程度になることもあった.
低CO₂濃度下では,C3植物は光呼吸によってATPやNADPHを消費し,しかも
CO₂を放出してしまうため,高い光合成生産を行うことができない.
一方 C4植物では,光呼吸がほとんど起こらないため,光合成はCO₂濃度の影響
を受けにくい.すなわち C4光合成系は,CO₂濃度の低下に対応して 進化して
きたと考えられている.
C4植物は 葉内の細胞間隙の CO₂濃度が低くても 高い光合成生産を上げること
ができるので,一般に 気孔開度を小さくして気孔コンダクタンス(気孔抵抗の逆数)
を低く抑えている.このため 蒸散による水の消費量が少なく,乾燥にも強い.
CAMは,乾燥地帯のC3植物から,乾燥化に対応して進化してきたとする仮説が
ある.
地球の平均温度と大気中 CO₂濃度の変化には,地質年代的にみて たくさん
の変動があるが,これらは同調的に起ってきた.すなわち,温度の高い時期には
CO₂濃度も高く,逆に 温度の低い時期には CO₂濃度も低かった.
最終氷期以降 2万年前から地球は一貫して温暖化,CO₂濃度は増加してきた.
増加がおさまったのが 1万年くらい前で,過去の周期からすれば,現在は気温
もCO₂濃度も増加期ではなく,むしろ 低下期にあるはずだった.
ところが 産業革命以降,人類による化石燃料消費量の激増に伴い,わずか 160年
ほどで CO₂濃度は280 ppm から370 ppm に増加し,地球の平均温度も 1℃
近く上昇した.
「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の2000年度報告書では,21世紀中に
CO₂濃度が 最大で700 ppm を越え,地球の平均温度が さらに最大で6℃近く
上昇する可能性が高いとされている.このような急激な地球環境変化は,過去に
起こった変化の100倍以上も早く,地球史上かつてないものである.